募るイライラ

秋学期にコミカレに入学してから4ヶ月が経った。もうスポケインの生活には慣れてきたのだが、未だに慣れないのがホームステイである。

相変わらずマリアのダイエットに付き合わされるし、彼女が時々発狂するのも嫌だった。例えば、彼女はテレビが正常に動かないから、と業者に電話したのだがあっちが丁寧に色々説明しても「分からないわよそんなこと!」と言って相手に怒鳴り散らしていた。その挙句僕に「なんとかしてちょうだい!」と言って電話をよこし僕が色々対処するハメになった。

極め付けはリビングルームにあるプリンターを僕が使った時だった。僕が授業のために色々プリントアウトして学校に持っていった数日後にまたプリンターを使おうとすると、プリンターが消えていた。あれ?と思ってマリアにプリンターはどこに行ったのか聞きに行ったところ、彼女はいきなり、

「プリンターを使いたいならお金を払ってちょうだい。インク高いのよ。」

と言ってきた。そういうことか。彼女は僕に使わせないためにプリンターを隠したのだ。あまりに陰湿なやり方をするものだから完全にキレてしまった。子供みたいな扱いしやがって!

日本人とシェアハウス!?

もう我慢の限界に来ていた時、なんと日本人の雄三が、「ルームメイトを探しているんだがどうか?」と僕に話を持ちかけてきた。雄三の家はベランダからキャンパスが見えるほどコミカレに近くて、授業の5分前に家を出れば間に合うくらいで、しかも家はかなり広い。もちろん自分の部屋があって、バスルームは兼用だが最高の条件だった。

しかし、僕には気がかりなことがあった。せっかくアメリカに来たのに日本人と住む、ということだった。渡米前は「日本人とは話さないぞ」と意気込んでいたのに蓋を開けてみればガッツリ日本人と絡んでいる。僕はどうしよう、と思って家族に相談した。

母親は僕と同意見で、住むなら絶対にアメリカ人と住みなさい、と言った。母親のいうことは痛いほど分かる。それでも、僕はこれまでにない最高の条件をなかなか捨てきれなかった。そして僕は父親にも相談した。自由奔放主義の父親にだ。すると父親はこう言った。

「お前はもっと物事を大きく考えた方がいい。留学生活を送る上で、その問題はそんなに重要なことか?」

と言ってきた。そこで目が覚めた。確かに。なんでこんなことで悩んでいるんだろう?一緒に住むのが日本人でも、別に他でそれを補えばいいじゃないか。別に雄三と四六時中行動するわけじゃない。僕はアメリカ人との関係を常に大事にしているし、そもそも学校生活で1番刺激を与えてくれているダイキだって日本人じゃないか、と。

決まりだ。雄三と住もう。

ということで僕はマリアに「この家を出て友達を住む」という旨を伝えたところ、彼女は「契約が1年あるから無理だ」と言ってきた。

嘘だ。僕は契約書をちゃんと読んだからいつでも家を出ていいことを知っていた。そう言っても彼女はいうことを聞かなかったので、コミカレのハウジング担当に連絡するよう伝えた。彼女は実際にそうしたが、やはり僕の言った通り、1年なんていう契約はないという旨だった。

ということで僕は早々に荷物をまとめて雄三のアパートに移った。その夜はお祝いということで、雄三が夕食を作ってくれた。2人でしょうもない話をしてお酒を飲みながらいい気分になった。やはり、友達とシェアハウスをするのは楽しい。

夕食を終えた後、僕はベランダに出て、目の前に広がるコミカレのキャンパスを一望した。素晴らしい生活だ。歩いて5分で学校に行けるなんて。

留学を終えた今だから言うが、僕はあの時の決断は正解だったと思っている。確かに日本人と過ごす時間は増えたが、それで僕の留学生活のクオリティが落ちてしまうほど僕は弱くない。僕は周りに驚かれる程見る見るうちに英語が上達したし、勉強に支障が出ることも一切なかった。

父親の言っていたことはこういうことだった。つまり、「日本人と住んだくらいでお前の留学生活がマイナスになってしまうほど、お前は弱いのか?」ということだ。父親はこの先、僕が色々相談した時、「物事を大きく考えろ」とよく言った。それは僕の留学生活で大いに役立つ言葉だった。