English 101の授業

さて、オリエンテーションも終えて、学校生活の基本を抑えたところでようやくコミカレの授業日がやってきた。2年で卒業するには1学期間に5クラス受講する必要があった。Spokane Falls Community Collegeはクオーター制(4学期制)で、90単位を2年で取得する必要があり、夏休みを大体オフにする学生は1学期間に15単位を獲得しなければならない。1クラス3単位であるので、1学期に5クラス取る、という計算である。

その中のAmerican Honors専用の授業であるEnglish 101のクラスにいくと、馴染みのある顔がいくつか飛び込んできた。オリエンテーションでいた中国人やアメリカ人が全部で10人くらいいる。そして1番後ろの席の方にあいつが座っていた。

背の高い日本人だ。

僕は特に挨拶することもなく、彼から少し離れて1番後ろの席に座った。

アジア留学生の「あだ名」

先生が教室に到着した。結構若い感じの超短髪ヘアーの女性だった。彼女は全員の名前を連呼し始めた。アジア系の名前が多くてちょっと手こずっているようだった。ここで面白かったのは、アジア系の生徒は全員、「あだ名」を持っていたことだ。アメリカ人に呼んでもらえる名前にしないと、覚えてもらえないからだろう。

中国人たちは自分たちの本当の名前を呼ばれると、決まって最後に

「I go by ナントカナントカ」

というのだ。Go byとは、〜と呼ばれています、という意味だ。中にはかなり個性的な名前もあって吹き出しそうになった。Angel(エンジェル)とかCosmo(コスモ)とか、漫画に出てきそうな名前もいた。

日本人留学生、ダイキ

そして先生が、

「Daiki」

と呼んだ。そしてあの背の高い日本人が

「Here(ここです)」

と言い、おまけに

「I go by Steve(スティーブと呼んでください)」

と返答した。なんだ、こいつもアメリカ・ネーム持ってるのか。

僕の名前、「Takayuki」も呼ばれたが、僕はアメリカ・ネームなんて持っていなかったので、僕はただ「ここです」と返答した。しかし、彼女は僕に「もっと呼びやすい名前はないのか?」という目で見てきたので、「Takaと呼んでください」と付け加えた。

ここでダイキと僕はお互いの名前を知った。

難しすぎるEnglish 101

English 101の授業は、英語の超基本クラス、と聞いていたが、かなりレベルが高くてびっくりした。英語で、「アリストテレスが考える幸福とは何か」、を記した本を読まなければいけなくて、そのかなり難解の本をクラスのみんなで紐といていく。正直、日本語で授業を受けても難しかったと思う。アメリカ人でさえこの授業を苦戦しているのが分かった。

クラスには10数人しかいなかったので、先生が一方的に講義をするというよりも小さくまとまってディスカッションをするタイプの授業だった。

その中で中国人はやはりかなりの存在感を放っていた。とりあえず彼らは授業中の発言量がすごい。日本であれば教師に質問を投げかけたら皆黙っているのが普通であるが、彼らがいればそのようなことにはならない。アメリカ人もよく発言するが、中国人たちも負けじと声をあげる。

一方僕とダイキは、後ろの方で静かに座っていた。それでも僕らは教師に何か意見を求められたら、黙るということはしなかった。僕らは授業中の発言量は少なかったが、割と時間をかけて塾考するタイプだったので、手を挙げて発言する前にしっかりと時間を取るタイプだった。どんなに難しくても間違っていても何も言わないことは絶対になかった。

僕にとって他の授業はかなり簡単だったのでこのEnglish 101の授業に大幅な時間をかけるようになった。数学なんて高校で習ったようなものだったので勉強しなくてもテストで9割以上取ることができたし、他の授業も高校でしっかり勉強していれば難なくクリアできるものだった。しかしこのEnglish 101はとてつもなかった。

それはダイキも一緒のようで彼もかなりストレスが溜まっているのが目に見えて分かった。なんだが最初は勝手に敵対視していたが、僕同様に苦しんでいるのを見るとなんだが彼に話しかけてみたくなった。

ついにダイキに話しかける

そして、僕はついに彼に話しかけた。たしか、授業が終わった後に僕から話しかけた気がする。

「English 101、どんな感じ?」

すると彼はちょっと険しい表情で

「どうもこうもないよ。English 101のくせにこんなに難しいなんて。これじゃあ編入に響いちゃうよ」

どうやら彼も編入にかなりの重きを置いているようだ。彼も僕と同じか、と察して、その後彼をランチに誘った。

これが、僕とダイキの友情の始まりだった。彼の経歴はかなりユニークで、僕の数倍大変な思いをしてきたらしい。次の回で、僕はこのダイキ、という男に関して全ページで説明しようと思う。彼は非常に面白いやつで、僕の人生に非常に大きな影響を与えた人物だ。きっと、彼の物語は、読者に色々な知恵を与えてくれるはずだ。