渡米当日

ついに渡米の日がやってきた。

慶應の図書館でアメリカの大学に行く、と決意してから約半年。ついに冒険が始まると思うと武者震いが止まらない。

当日は僕の高校の友達数人と、家族が見送りに来てくれた。

友達に別れを告げた後、僕は家族に「頑張ってね」と言われた。そこで、僕はリュックの中から手紙の入った封筒を3枚取り出した。この前のサプライズ・パーティーで手紙をくれた家族へのお礼を、僕からも手紙で返そうと思ったのである。

彼らは嬉しそうだ。

早々に踵をくるりと返して、「じゃあ」と言って、早々に空港のゲートへ向かった。彼らには見えていたかもしれない。僕がめちゃくちゃ泣いていたのを。

「大丈夫。またすぐ会えるさ。」

と自分に言い聞かせて僕はその場を去った。

少し落ち着くと、またワクワクが戻ってきた。スポケインに行く前にまずはシアトルに立ち寄る。ここは母が人生で初めて留学に行った場所だから僕も行ってみたかったのである。

さあ、夢にまでみたアメリカだ。

シアトル

無事に飛行機がシアトルに到着した。

なんだか、アメリカはアメリカの匂いがする。そう言えば、パスポートをとるためにアメリカ領事館に行った時もこの匂いがした。なんというか、ハンバーガーみたいな匂いだ。

シアトルに着いたらまずは電車にのる。「地球の歩き方」を読んできたから全部お手のものだ。しかしまあ電車の駅でのテキトーさには驚いた。空港の駅は別として、他の駅では別に改札口もないので、運がよければ無賃乗車もできるのだ(時々捕まる人もいるが)。

ダウンタウンのホテルで荷物を降ろして、いよいよ街内の散策だ。それにしてもシアトルは広大だ。なんというか、アメリカの街ってこんなに大きいのかと圧倒されてしまった。とにかく1つ1つのビルが大きくて高い。東京みたいにそれらのビルが密集してるわけじゃなくて、なんだか空間にゆとりがあるのだ。街としては東京よりも断然小さいと思うが、実際の数字とかデータを無視すればシアトルの方が大きく見えるに違いない。

僕がまず向かったのはPike Place Market (パイク・プレイスマーケット)だ。母親が若い頃によく遊びに行っていたという場所。そこにはスターバックス1号店もあった。お店の前でお洒落な格好をした黒人がウクレレを弾いていた。コーヒーでも買って行こうかな。

初めて英語でコーヒーの注文だ。綺麗なお姉さんがとびきりのスマイルをくれた。

“Hi! What can I get for you?”

“Can I get hot coffee?”

“What kinda coffee would you like?”

コーヒーの種類?そんなこと考えたこともない。アメリカンコーヒー?いや待て、それってものすごく和製英語っぽいな(後にわかったが、Americanoと言えば通じる)。ブレンドとも言いたくなったが、これもものすごく和製っぽい。

聞いたところMedium roastとかDark roastがあるらしい。多分濃さの違いだな。それじゃあMedium Roastで。

“What size?”

えーと確か、スタバって色々気取ったサイズの呼び方があったよな。でも覚えてないや。

“Smallest one”

トールサイズのコーヒーをくれた。ふう。やっぱり英語でオーダーするのってまだ慣れないな。それにしてもアメリカ人は店員と気軽に今日一日の話とかをするからすごいなと思った。初めて会う人に会話なんて何喋ったからいいか分からないよ。

すると不意に昔読んだ本のことを思い出した。確か中学時代の時に読んだのだが、それは論理的思考力についての本で、その中で情報交換の重要性について語った章があった。それによると、昔の欧米ではこの「カフェ」が情報交換の場所として重要な役割を果たしたという。インターネットとかいう概念すら皆無だった時代に、重要な情報をコーヒーを片手に交換し合う、というわけだ。もしかしたら、アメリカ人がこうやって赤の他人にぺちゃくちゃ喋っているのにもそういうところにルーツがあるのかもしれない。

パイク・プレイスマーケットはとても賑やかで楽しい場所だった。美味しそうなフルーツや大きな魚がたくさん店頭に並べられている。そう言えば母親がシアトルのクラムチャウダーが美味しいと言っていた。ここのどこかにあるに違いない。

するとこじんまりとした屋外のレストランがあった。よく見るとそこにいる人はみんなクラムチャウダーを食べていたので、「よしここだ」と決めた。クラムチャウダーください。

クラムチャウダーはそこそこ。というか多分日本の方が美味しい。でも雰囲気もよかったし良しとしよう。

こんな感じでシアトルの街を一日中歩いていた。シアトルはビル群だけじゃなくて、少し歩けば海もあるし、緑もある。都会と自然が絶妙に調和した素晴らしい街だった。

そこで翌日もシアトルを散策し、夜はホテルでゆっくり休んだ。

よし。いよいよ明日スポケインだ。