友達に渡米する旨を伝えたところ、みんなが僕を祝福してくれて、前途に幸あれとお祝いしてくれた。特に嬉しかったのが、僕が大好きだった高校時代の友達が30人ほど集まってサプライズ・パーティーをしてくれたことだ。

最初は4人くらいで飯でも食いに行こうという話だった。彼らが予約したレストランにとぼとぼ歩いていると、なんだか質素なビルに連れて行かれてエレベーターに乗った。「変だな」と思ったが、エレベーターを降りてドアを開けると、そこには馴染みのある顔がたくさんいて僕にスポットライトを当てた。

そこはパーティー貸し切り専門みたいなところだったので、辛気臭いビルに似合わずとてもお洒落だった。そしてそこには当時好きだったPharrell WilliamsのHappyが流れている。僕のテニス部時代の友達に目をやると彼がニヤッとした。きっとあいつが選曲したのだろう。

こういうサプライズパーティーに慣れていなかったのでドギマギしてしまったが、僕がシャンパン・タワーに名称が分からない体に悪そうな青いお酒を注いだ。みんながワーワーいいながら写真をとってくれた。

彼らは僕と中学、高校時代を共にした仲間だ。元カノさえ来ていた。

感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。それと同時に、これから先当分彼らに会えないことの悲しみも胸に広がった。当然だろう。彼らは一生の友達なんだ。

部屋の中がとんでもなく暑くなっていたので、僕は空気を吸いに外に出た。そこで地ベタに座ってボケーっとしていると、高3のときに仲がよかった宮原という女子が後ろから1人で現れた。

僕は彼女とは特に仲がよくて、高校時代を最高のものにしてくれた親友の1人だ。

彼女は僕の隣に座って、いつものようにくだらないことを話して笑い合った。すると彼女が突然泣き出してしまった。「寂しいよ」といいながらずっと泣いていた。僕も泣きそうになった。男女の友情はない、とよく言うが、宮原との友情は正真正銘本物である。僕は彼女の背中をさすりながら「またすぐ会えるよ」と言った。

2人でまた部屋に戻ると、もう締めの段階に入っていた。しかし、ここで終わりではなかった。司会者の2人が僕を大きなスクリーンの前で座らせた。すると、司会者の1人がマイクで耳を疑うことを言い出した。

「ご家族の方からお手紙を預かっています」

え?

飛び上がるほどびっくりした。僕の家族はなんと言うか「塩家族」。なんというか、こういうクサいことを絶対しない家族なのだ。お互い褒めたりそういうこともしないし、お互い「ありがとう」すら中々言えない家族なのだ。彼らから手紙だって?

スクリーンに手書きの紙を映しながら、司会者が家族の手紙を読み始めた。妹、母、父親の順番だ。

恥ずかしいので中身は省略させていただく。しかし、母親の手紙に差し掛かったところで耐えられなくて号泣してしまった。母親は僕の知らないところでいつも応援してくれて、留学のことも誰よりもリサーチして僕に話してくれた。

「ああやっとあんたがいなくなる」などと普段から僕に言っていたが、この日の母の手紙から、「僕がいなくなることの寂しさ」が伝わってきた。「よく2人で映画観に行ったね」だってさ。

妹からは激励の言葉、父親からはユーモアを時々交えながら「楽しんでおいで」、というメッセージがあった。

なぜか僕の友達が手紙の内容を聞いて泣いていたので、思わず笑ってしまった。

そして、僕への「追い出し会」は終わった。感謝と感動で胸がいっぱいになって帰宅すると、家族は全員まだ起きていた。彼らは今日サプライズ・パーティーだったことはもちろん知っているし、そこで彼らの手紙が読まれたのもご承知だ。

母親が「どうだった?」と聞いた。

「楽しかったよ」と答えた。

でも手紙のことは切り出さなかった。「ありがとう」と言いたかったが、恥ずかしくて言えなかった。

僕はリビングのソファに座って、いつものように家族とテレビを見た