ネタを書くのはもう嫌だ
慶應大学の図書館で僕は頭を掻きむしりながら1人で机に向かっていた。机の上には一枚の紙があり、「ネタのアイデア」とちょこんと書かれたまま筆が一向に進んでいない。一ヶ月後に相方との漫才ライブが控えているのだが、もうネタに尽きてしまった。こんなに漫才のネタを作るのが厳しいなんて思いもしなかった。
時は2013年。僕は大学一年生である。特にやりたいことがなかった僕は、中学からのエスカレーター式で、自由度の高いSFCに入学した。しかし、毎日考えるのはネタ、ネタ、ネタ。「お笑いで食って行こうかな」と若干思っていたが、ここまでネタを作るのが苦しいと敵わん。
筆を止めて、ネタを考えるのをやめた。ネタを考えるのがもう「嫌になっている」ことに気づいた。こんなんだったら30代手前でノイローゼになって鬱病になるのがオチだ。もうやめよう。
好きなものリスト
机に置いてある一枚の紙を裏返して、こう書いた。「好きなものリスト」。どうせなんだから自分の好きなことをして生きよう。そう思って、紙に自分の好きなものを書いた。
まず1つ目。「物語」だ。僕は物語を書いたり人に話すのが抜群にうまい。高校の時、完全オリジナルで文化祭のための劇の脚本を書いたが、先生や実行委員会の人たちに「こんなに面白いことはみたことがない」とよく言われたものである。それとちょっと恥ずかしいが、小学生の頃、一緒に登校していた「高橋くん」と、物語の聞かせあいっこをしながら学校に通っていた。僕が毎朝聞かせるお話で、高橋くんは抱腹絶倒してよく道端に転げ回っていた。高橋くん、元気かな。
2つ目。「映画」だ。僕は映画を見ることが好きだ。僕は小さい頃から両親の影響でよく映画をみていた。母親は結構いろんなタイプの映画が好きだったが、まず最初はということで「インディ・ジョーンズ」とか「ジュラシック・パーク」を見せてくれた。インディ・ジョーンズは僕もとても気に入っていた。母親は、三部作ラストの「最後の聖戦」が好きだ。父親も映画を見るが彼は「ジョーズ」ばっかりみているイメージがある。怪物がガーっと出てきて、ウワーっと人を殺したり、アホでも分かる映画が好きだ(父親は某外資系コンサルティング会社で働き後に企業した超エリートである。)
3つ目は「アメリカ」だ。僕は小さい頃からアメリカに憧れていた。実は僕はアメリカ生まれなのだが、その時の記憶は一切ない。でも、僕はいつもアメリカに何かある気がした。僕のルーツ的なものである。そういうこともあって、僕は聴く音楽は全て洋楽、見る映画は全て洋画だった。好きなアーティストはEminem。好きな映画はイギリス映画のSnatchだ。
3つ目を書き終わったところでじーっと紙を見つめる。そこには割と単純明快な答えがあった。
アメリカで映画の勉強をすればいいじゃないか。
自分の好きなこと3つが一気に達成される。自分で物語を書いて、それをアメリカで映画で伝えるのだ。一石三鳥だ!
僕は紙をリュックにしまってノートパソコンを開けた。そして、Googleの検索にタイプした。
「SFC 交換留学」